komatan  ■ アオバト 調査・研究
 ■ TOP
>>アオバト

記録(声)

TOP >>アオバト >> 調査研究
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21 22 23
24
 

北を目指したアオバトがいた 

私のアオバト仮説 その一

田端
2001.09.15
  • 私たちこまたんがアオバトの本『大磯照ヶ崎海岸におけるアオバトの生態』を出版してから10年経った。 その間いろいろと新しい事実を知ることができて、“アオバト海水吸飲の謎”に対して立てた仮説は新しく衣替えする必要が生じてきた。素人の強みを活かして大胆な仮説を展開していきたいと思うので、大いに異を唱えていただきたい。 ご意見ご批判大歓迎!

  • アオバトは冬は中国に渡るのか?
     通称“連盟の図鑑”、日本鳥類保護連盟の『鳥630図鑑』のアオバトの項を開くと分布図がある。
     北海道・東北が水色(繁殖地域)、本州が緑色(終年生息地域)、伊豆諸島あたり(地図が小さいため詳細は不明)と台湾、中国南部が黄色(越冬地域)に塗られている。
     説明には「九州から北海道まで落葉広葉樹のよく繁った山地の森林で繁殖し、冬は温暖な地方へ移動する」とある。
     「冬は台湾や中国南部に渡っていく」と読んでしまう。 私もこのように“刷り込まれ”ていたが、果たしてそうなのか?
     
  • 中国の鳥類図鑑を見たら“留鳥”!
     『中国鳥類野外小冊』という2000年に発行された図鑑をパラパラと見ていた。アオバトのページを読んでいると、“留鳥”とある。この記述の持つ意味に気付いてあれっと思った。
     “刷り込まれ”ていたことがグラリと揺らいだ。
     通称“高野図鑑”、高野伸二『フィールドガイド日本の野鳥』日本野鳥の会の分布を確認し直してみた。
     北海道だけが繁殖地域とされ、本州、四国、九州から、台湾、中国南部まで終年生息地域として色塗りされていた。
     “連盟の図鑑”と“高野図鑑”が分布について異なっていることに、今ごろになって気付いた。お粗末!
     日本と中国のアオバトは別な亞種ではないのか? 新しい図鑑類もだいぶ出ている。この際とばかりに本棚から引っ張り出して調べてみた。
     アオバトの生息分布から私の新しい仮説が浮上してきた。
     
    亞種 Treron sieboldii sieboldii は日本特産種
     アオバトTreron sieboldiiには4つの亞種がわかっている。
     最新の図鑑『中国鳥類野外小冊』の分布に関する記述を要約する。
     (a)Treron sieboldii sieboldiiという亞種の記録が河北省にある。
     (b)T.s. sororiusという亞種は台湾、江蘇省、福建省に分布。
     (c)T.s. fopingensisは四川省東部、陝西省の南部の泰嶺山地に分布。陝西省の個体は、鄭作新・潭耀匡(1973)の論文に新亞種として報告されたものであろう。
     (d)T.s. murielaeは広東省、広西壮族自治区、海南島に分布、香港で越冬。
     
     亜種名を便宜上こう呼んででおくことにする。
      (a)Treron sieboldii sieboldii  は亞種“日本”
      (b)T.s. sororius は亞種“台湾”
      (c)T.s. fopingensis は亞種“中国中部”
      (d)T.s. murielae は亞種“中国南部”
     
     鄭作新(1987)には記録の出所が明らかにされている。
     亞種“日本”は河北省圍場県で1933年に記録された個体で、これは日本人が持ち込んだ飼い鳥が籠抜けしたものだろうと書いてある。中国の本土の温帯域ではこの記録だけなので、亞種“日本”は日本にしか生息していないと推定できる。
     Treron sieboldii sieboldii は日本特産亞種だ。
     亞種“台湾”は、台湾では留鳥と記述されているが、江蘇省の記録は上海東方海上の沙衛山島の記録で旅鳥とある。中国本土ではなく島嶼での記録である。
     亞種“中国中部”は留鳥で、山西省南部、四川省東部。
     亞種“中国南部”は留鳥で貴州省綏陽県、広西壮族自治区、海南島に分布とある。
     4亞種とも中国の生息状況は“very rare”とある。
     『中国鳥類野外小冊』でも、留鳥。まれに見られる とある。
     中国ではあまり見られないらしい。
     しかし、台湾野鳥資訊社 監修(1991)で最新の台湾情報を読むと、亞種“台湾”は、普通に見られる留鳥で、山地(台湾中央部から東部にかけて)に分布しているとある。
     台湾では、ズアカアオバト Treron formosaeがまれな留鳥で、屏東墾丁、台東、花蓮 玉里、蘭嶼で観察・捕獲の記録がある。
     ズアカアオバトについては次の機会に譲ることにする。
     
  • 亞種“日本”は北限に挑戦した
     D. Gibbs, et al.(2001)ではアオバトを雄の大きさや頭頂部・胸部の黄色みの色合いの度合いのわずかな違いで3亞種に分けている。  

     T.s.sieboldii (日本、琉球諸島、台湾、東部中国)
     T.s.fopingenis(山西, 四川)前頭部と胸が金色味が強い
     T.s.murielae(貴州, 広西, 海南島, ヴェトナム、ラオス)上の2亜種とほぼ同じだがわずかに小さい

     亞種“台湾”は形態的には亞種“日本”と違いはないとして別亜種に分けていない。 しかしながら私は、亞種“日本”の生態的特殊性に着目して、あえて4亞種説を採って論を進めることにする。 亞種“日本”は北はクナシリ、サハリンにまで生息域を広げており、亞種“台湾”、亞種“中国中部”、亞種“中国南部”の亜熱帯生息種とは異なり、亜寒帯の夏にまで生活範囲を広げていることに注目しておきたい。
     
     熱帯から亜熱帯に分布している果実食のハト、アオバトのなかまたちは約120種もいるが、海水を飲むことが観察されているのはアオバト、厳密に言うと亞種“日本”だけであるといってもよい。まず、仮説の第一は、亞種“日本”が温帯から亞寒帯に分布していることが“海水吸飲”と何らかのつながりがあるのではないかということだ。

     D. Gibbs, et al.(2001)に地図があるので4亞種の分布をおさらいしておこう(著作権未解決により略)。

     次回は亞種“日本”の北への進出と海水吸飲の関係の仮説を提示したい。   (高麗の鳥より)

参考文献

  1. 鄭作新 潭耀匡 1973 : 「陝西省泰嶺におけるアオバトの新亞種」 動物学報19(1)
  2. 鄭作新 1987 : 『中国鳥類区系綱要』 科学出版社
  3. 高野伸二 1982: 『フィールドガイド 日本の野鳥』日本野鳥の会
  4. 日本鳥類保護連盟 1988: 『鳥630図鑑』日本鳥類保護連盟
  5. 台湾野鳥資訊社 監修 1991: 『台灣野鳥圖鑑』 日本野鳥の会
  6. John Mackinnon・Karen Phillipps・何芬奇 2000:『中国鳥類野外小冊』 湖南教育出版社
  7. D. Gibbs, et al. 2001:   "Pigeons and Doves -A Guide to the Pigeons and Doves of the World-"  Pica Press