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ピジョンミルクの不思議

私のアオバト仮説 その10

田端
2002.07.02

小樽の佐々木勇さんが1986年に自費出版された『あおばと』という貴重な本をお借りすることができた。その本で佐々木さんはアオバトの巣が発見しがたい理由を三つあげている。

その1.

緑の樹木の緑の葉の中に、緑の鳥が静止していて、あまり激しく飛び回ることがなく、繁殖期には人に怯えて騒ぐことがない。鳴き声が聞こえても、人が近づく気配がすると鳴きやむ。

その2.

抱卵の時は雌雄が交代するのは一日に2度ぐらいで、緑の葉の中での動きであり、わずかな時間なので偶然の時以外は、遠くからは絶対に確認できない。

その3.

他の小鳥は卵から雛が生まれるや否や、雌雄ともに雛に餌を運ぶために頻繁に巣に出入りする。

 アオバトは乳糜(にゅうび)(ピジョンミルク Pigeon milk)を飲ませるので、巣からは全く出入りすることはない。雛が少し成長するに従って乳糜は薄くなり、親は木の実を?嚢(そのう)にたくさん蓄えて、雛の嘴を親の口中にくわえて、吐きだして一度に多量に押し込むので、他の小鳥の育雛のように甚だしく頻繁に出入りする必要がない。

……………………………………………
ピジョンミルクの秘密

普通の鳥はふだん植物食であっても、雛を育てる時期には動物質のものを捕らえて雛の餌にする。ハト類は植物食を常としているが、繁殖期には多くの種は、ある程度の量の小さなカタツムリやそのほかの無脊椎動物を食べる。先頃発刊された『20世紀神奈川の鳥』でも“ミミズを食べるキジバト”の記録がある。

 生まれたばかりの雛に、消化に悪い繊維質を多く含んだ植物を与えるわけにはいかないので、ハト類はタンパク質・脂肪の含まれたピジョンミルクを与えることでこの問題をクリアしている。

@ピジョンミルクの作り方

脳下垂体ホルモンのプロラクチン(哺乳類のミルク生産に関与しているのと同様のホルモンだが、ハト類ではオスメスともに作用する)の分泌によって抱卵期の中頃あたりからそ嚢の一部の組織が厚くなりはじめ、そこに血管が発達してくる。
抱卵期後半から、そ嚢の壁の成長に従ってそ嚢は3倍以上もの重さになる。

 雛が孵化する時点までには、蜂の巣構造をした赤みのある襞がそ嚢の中に見えるようになる。この部位からミルクを含んだ細胞がそ嚢の中に剥がれ落ち、それが吐き戻されて雛に与えられる。

Aピジョンミルクの成分は哺乳類のミルクと似ている

  • 水分 65〜81%
  • タンパク質 13〜19% 各種アミノ酸を含む
  • 脂肪 7〜13%
  • ミネラル※と ビタミンA,B,B2 1〜 2%
  • 炭水化物 含まれず
     ※カルシウムとリンの含有量は少ないが、ナ トリウムを多く含んでいる

    ミルクは濃厚な液(固形分19〜30%) で、粘度とみかけはカテージチーズそっくり。水分を多く含むため、親鳥の体の水分確保にかなりの負担を強いる 【嘴を鼻孔まで水中に入れて頭を持ち上げずに水を吸飲できる体の仕組みもこのための適応か】

B離乳はどのようにするのか

雛は孵化してから数日間はミルクのみで育つ。そ嚢壁のミルク細胞は、この間はそ嚢がからっぽのときにだけ剥がれ落ちるので、親の食物自体がミルクに混じって吐き戻され与えられることはない。 【うーん、うまくできてるな】

それ以後は親鳥が採ってきた食物を一定の割合でミルクとともに与えられる。
この割合は雛が成長しきるまで変わらない。
親鳥が雛の面倒を見ている間だけミルクは生産され、育雛が終われば出なくなる。

Cミルクのおかげでハト類はいつでも繁殖が可能

 このミルクがあるために、雛の養育に昆虫類(およびその幼虫)などのタンパク質に頼る他の鳥類と違って、昆虫類の発生が少ないシーズンでもほとんど一年中繁殖が可能である。 『20世紀神奈川の鳥』にはドバトの11月(藤沢)や、『神奈川の鳥1986-91』にはキジバトの2月(藤沢)などの観察例が載っている。

フラミンゴもミルクを出す

ところで、フラミンゴもミルクを出すことが知られている。

@フラミンゴミルクの成分

 ピジョンミルクと比較すると

  • タンパク質はいくぶん少ない( 8〜 9%)
  • 脂肪は多い (15%)
  • 炭水化物はハト同様ほとんど含まれていない。
  • 赤血球細胞が約1%含まれている
  • カンタキサンチン(成鳥の羽毛を染める赤い色素)を大量に含んでいるので、鮮紅色をしている。
  •  雛の肝臓にそのまま蓄積されるので、雛の綿羽や幼鳥羽にはその色素は含まれていない。だから、雛は灰色の羽毛をしている。

A若鳥もミルクを出す

 雄も雌もミルクを出すのはハトと同じだが、生後7週間の若鳥もミルクを出す。おそらく絶え間なく餌をねだる雛の鳴き声に刺激され、プロラクチンホルモンが分泌され、ミルクが出るようになるのだろう。若鳥は仮親になれるようだ。

Bフラミンゴがそ嚢ミルクを生産するようになったわけ?

 文献では以下の理由が挙げられている。

    1. 充分なタンパク質を雛が必要とする
    2. 成鳥の採食する湖の高いアルカリ濃度
    3. 成鳥の特殊な採食習性とそれに見合った嘴の構造
    4. 採食場所からいくらか離れた所に営巣する

 通常は1卵という少ない一腹卵数だから、このシステムがうまくいっていると文献では述べられているが、この仮説については不勉強な私にはまだ理解が追いついていけない。調べてみたい。

そ嚢について知っておこう

 そ嚢(=crop)食道の下部にあるふくらんだ所で、食物を一時的に貯蔵したり、柔らかくしたりする機能がある。
 穀物食や種子食の鳥では敵に襲われないうちにすばやく食物をそ嚢に詰め込むことができる。
 したがって、肉食や昆虫食の鳥ではそ嚢と食道との区別は明白ではない。
 そ嚢腺からは消化酵素は分泌されず、粘液が出るだけで、消化は行われないのが普通。
 ツメバケイ(爪羽鶏=ホーアチン、アマゾン流域に棲む葉食鳥)では例外的に「胃」となっている。
 ハト類やフラミンゴ類の2グループでは、育雛期に肥大して剥がれ落ち、いわゆる「ピジョンミルク」ができることが知られている。
 そ嚢の形は、ただ単にゴム状にふくらんで沢山の獲物を一時的に収納できる型(魚食性の鳥)から、単嚢型(肉食性、穀物食性)、左右二嚢型(ハト)、筋肉壁で二嚢型(ツメバケイフクロウオウム)などいろいろある。


アオバトのピジョンミルクの成分は?

 ピジョンミルクについてあれこれ調べてきたが、アオバトのピジョンミルクはまだ調べられていないと思う。
 ほかのハト類の研究例だと思うが、ナトリウムが多く含まれていると書かれている。アオバト以外のハト類が海水を飲む行動はないわけではないが、アオバトのように顕著ではない。
 大体、アオバト種自体でも、亜種“日本”以外では海水吸飲観察例は皆無に等しい。
 ミルクと海水吸飲との間に因果関係は果たしてあるのか。
 仮説は謎をさらに深め、再構築が必要になってきた。


 アオバト調査隊の貴重な観察記録をまとめ、事実の集積を謙虚に見つめ直すことから新たな仮説の土台を築いていこう。

高麗の鳥:2002年7月(第239号)

参考文献

  1. C.M.ペリンズ/A.L.A.ミドルトン編 黒田長久監修 1986:  H.ロバートソン(オックスフォード大学 イギリス) 動物大百科 第8巻 鳥類  平凡社
  2. C.M.ペリンズ/A.L.A.ミドルトン編 黒田長久監修 1986:  J.キアー(オームスカーク.ガン・カモ協会 イギリス)動物大百科 第7巻 鳥類氈@ 平凡社
  3. 森岡弘之 1991: 鳥のからだと構造,   動物たちの地球 15 朝日新聞