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砂嚢が強くなったグリーンピジョン

私のアオバト仮説 その13

田端
2002.11.17

今回は世界のハトのなかでのアオバトの存在について少し調べてみた。アオバト属(Genus Treron)の占める位置についての私の仮説を新たに述べてみたい。また、小樽の佐々木勇さんの示唆から得た、アオバトについての日本最古の文献についての仮説も加えてみた。
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熱帯の森林から果実食のハトが生まれた

 かつて紹介した上田恵介さんの説や浦本昌紀さんの説から、私が想像した物語を語ってみよう。

 熱帯のジャングルの中で果実食のハトが誕生した。ハトたちは樹上にたくさん実っている果実を丸飲みしていたが、砂嚢は強靱でないので破砕力も弱く、固い種子は消化されなかった。あちこちに飛び回るにつれて糞に混じって種子はばらまかれ、芽が出て果樹が育ち、やがて彼らの食料となって、また排出され、そして芽生え、この循環が続いていた。

 新生代(いまから6500万年むかし)に地球上に冷涼・乾燥した環境が広がり、草原が出現するようになった。草原の出現よりも早かったかどうかはわからないが、樹上で果実を丸飲みしていたハトの中から、樹下に落ちた果実を拾って食べるハトが出てきた。これらのハトの中には樹上よりも地上で採食するほうが主になってきたグループがあった。

 多分これらのハトの中から密林を出て明るい林や林縁で採食するハトが現れてきたのだろう。また、さらに草原へ進出するハトもここから出現したのかもしれない。

果実食ハトから種子食ハトの誕生へ 

樹上から地上へ


 一年中いつでも果物が実っている熱帯とは異なり、冷涼・乾燥した草原地帯では新しい工夫が必要になる。 消化しやすい果肉部の少ない種子を灌木や草や地上から採取していかなければ飢えてしまうハトもいたに違いない。また、動物質の餌も少量だろうが採るものも出てきたと思う。

 いずれにせよ、採餌は地上が主体というハトのグループがここに至って誕生した。こうしたハトたちの中から固い種子をすりつぶして消化できる強固な砂嚢の原型が生まれたと思われる。なかには、地上でついばんだ砂粒を砂嚢に加えて粉砕力を増強することを覚えたハトもいたことだろう。

 草原であれ、ジャングルの中であれ、主として地上で採餌するハトの中には、生活が地上に偏るところから、翼が退化して飛ぶ力が衰えたハトも現れた。当然、その結果として営巣も地上でということになったハトもいた。

 樹上から離れ、営巣場所を岩棚や岩の割れ目に移したグループも出てきて、さらにカワラバトのように人工物にまで営巣するものが出現した。

世界のハトの進化の流れは……

 山階芳麿(1986)世界鳥類和名辞典によると、ハト科のハトの仲間は地球上に302種類いる。そのなかには前回の仮説でも触れたリョコウバトのほか、オガサワラカラスバトリュウキュウカラスバトタンナバトノーフォークムナジロバトモーリシャスルリバトの6種の絶滅種が含まれているので、それを差し引くと、現存するハトたちの種数は296種である。

ハト類の“進化の物語”に沿ってそれらを列挙していこう。

A.アオバト亞科 118種

樹上採餌で果実食を主とすると考えられる

A.南アジアから南太平洋に分布

  • a−1.Fruit Dove グループ 95種   真正果実食 砂嚢は発達せず
    • ヒメアオバト属(Genus Ptilinopus)49種
    • カマバネキヌバト属(Drepanoptila)1種
    • ルリバト属(Alectroenas)3種
    • ミカドバト属(Ducula)36種
    • カミカザリバト属(Lopholaimus)1種
    • ニュージーランドバト属(Hemiphaga)1種
    • セレベスバト属(Cryptophaps)1種
    • ミヤマバト属(Gymnophaps)3種
  • a−2.Green Pigeon グループ 23種 
      果実食 砂嚢はキジバトなみに発達
      アオバト属(Treron)(23種.そのうち5種はアフリカ産)

B.カワラバト亞科 174種

地上採餌で種子食を主とすると考えられる(果実も食すものも)砂嚢は発達している.

  • b−1.南アジアから南太平洋までの種子食グループ 62種(うち6種はアフリカ産)
    • レモンバト属(Aplopelia)1種  (アフリカ産)
    • オナガバト属(Macropygia)8種
    • マイヒメバト属(Reinwardtoena)3種
    • カオジロクロバト属(Turacoena)2種
    • アオフバト属(Turtur)5種  (うち4種アフリカ産)
    • シッポウバト属(Oena)1種  (アフリカ産) 
    • キンバト属(Chalcophaps)2種
    • ハシナガバト属(Henicophaps)2種
    • ニジハバト属(Phaps)3種
    • レンジャクバト属(Ocyphaps)1種
    • イワバト属(Petrophassa)6種
    • チョウショウバト属(Geopelia)3種
    • ウオンガバト属(Leucosarcia)1種
    • ミノバト属(Caloenas)1種
    • ヒムネバト属(Gallicolumba)18種
    • ハシブトバト属(Trugon)1種
    • カンザシバト属(Microgoura)1種
    • ゴクラクバト属(Otidiphaps)1種
    • テリアオバト属(Phapitreron)2種
  • b−2.アメリカの種子食グループ 46種
    • ハジロバト属(Zenaida)5種
    • スズメバト属(Columbina)7種
    • アルキバト属(Claravis)3種
    • ハシリバト属(Metriopelia)4種
    • インカバト属(Scardafella)2種
    • オナガハシリバト属(Uropelia)1種
    • アメリカシャコバト属(Leptotila)10種
    • アメリカウズラバト属(Geotrygon)13種
    • クロヒゲバト属(Starnoenas)1種
  • b−3.アフリカ、ユーラシアの種子食グループ 
    • カワラバトキジバトグループ 66種
    • カワラバト属(Columba)50種   (うち17種はアメリカ産)
    • キジバト属(Streptopelia)16種

C.カンムリバト亞科 3種

  • b−1の南アジアから南太平洋までの種子食グループから生じたと考えられる 
     ニューギニアとその周辺の島々に分布

    カンムリバト属(Goura)3種    飛翔力が退化

D.オオハシバト亞科 1種

  • b−1の南アジアから南太平洋までの種子食グループから生じたと考えられ、オウム目への近縁関係が想像される種.サモア諸島のウポル島とサバイイ島にのみ分布.絶滅の危機に.
      オオハシバト属(Didunculus)1種

 

上記の296種のハトを一表にまとめた。

表1 296種のハト族

296種のハト
グループ名
分布
日本産ハト類
種数
亞科名
主に樹上採餌
果実食

 A.Fruit Dove ヒメアオバト属など

南アジアから南太平洋
95
アオバト亞科
 B.Green Pigeon アオバト
アオバトズアカアオバト
23
主に地上採餌
種子食
 C.南アジアから南太平洋・種子食のハト
62
カワラバト 亞科
 D.アメリカ・種子食のハト
46
 E.キジバトカワラバト
アフリカ  ・ユーラシア
ドバト)、ヒメモリバト、   カラスバトキジバトシラコバトベニバトキンバト
66
C.グループ
から生じた?
 F.カンムリバト
ニューギニア
3
カンムリバト亞科
 G.オオハシバト
サモア諸島
1
オオハシバト亞科


 表のBグループのGreen Pigeonアオバト属(Treron)をGibbsは次のように位置づけている。彼はGoodwin(1983)がこのアオバト属を真の果実食のハト類(Aグループのミカドバト属やヒメアオバト属)を生みだした幹から早い時期に分岐した属と位置づけたことに触れ、真の果実食バトが果実の果肉部だけを消化して種子をそっくりそのまま排出するのに対して、アオバト属の消化器系は種子食のハト類のタイプで、固い種子を破砕して消化することができることを指摘している。この事実から、アオバト属はカワラバト属とヒメアオバト属とをつなぐ輪になっていると思われる‥とGibbs(2000)は推論しているのだ。

 奄美の阿部優子さんに照ヶ崎で溺死したアオバトを送って解剖していただいたところ、アオバトの砂嚢はEグループのキジバト同様強靱なものであるとの所見をいただいたこともGibbsの推論との関連で実に示唆的である。

 中村登流(1988)さんはGoodwin(1970)の“果実食のハトは大きな胃を持っているが、アオバト属だけは例外で種子食と同じような狭い胃であり、中に小石を含んでいる”という言葉を紹介している。

 デービッド・アッテンボロー(2000)の本にも興味深い記述がある。“ヒゲガラは一年のうち短期間しか種子を食べず、春になると、昆虫を食べるようになります。昆虫のようなやわらかい餌なら、ていねいにすりつぶす必要がないので、ヒゲガラは砂を捨て、砂嚢を縮小します。”以前書いたことだが、野間直彦さん(2000)は「カラスバトは、もとは乾燥地にいた仲間だが、森林に進出した。砂嚢は強力で、ドングリでもすりつぶしてしまう。だが、その一方で、タブノキのやわらかい種子をそのまま排出する。不思議だが、まわりに果肉がある場合は種子をつぶさないのではないかと考えている」と述べている。

 鳥たちの適応力を侮ってはいけない。

 アオバトは樹上採餌を主にする夏季と違い、冷涼・乾燥した冬季には、地上で砂粒を拾い込み砂嚢の粉砕力を強化しているのだろうか? アオバトの特殊性を解くカギはここにもあるかもしれない。

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アオバトが日本にいた最古の記録は『兼澄集』か

佐々木勇さんのおかげで“私のアオバト仮説”のうち、いくつかの文章を訂正することができた。“私のアオバト仮説 その五”で一番古い文献でのアオバトの記録は江戸時代前期の『本朝食鑑』にアオバトの特徴を描写した“山鳩”であろうと書いた。なんと佐々木さんはもっと古い文献のことを記していた。

『この国は粟散辺土と申して、物憂き境にて侍ふ。あの波の下にこそ、極楽浄土とて、目出度き都の侍ふ。それへ具し参らせ侍ふぞと、様々に慰め参らせしかば、山鳩色の御衣にびんずら結はせ給ひて、御涙に溺れ小さう美しき御手を合はせ、先づ東に向はせ給ひて、伊勢大神宮、正八幡宮に御暇申させ御座し…』.これは平家物語の中の安徳天皇御入水のくだりであるが、“山鳩色の御衣”とは緑鳩色の御衣ということで、高貴な人の衣服の色に使われていて、緑鳩の緑色が優美に扱われていたものである。

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 私はすぐにピーンと来た。色名についての文献とその色見本を掲載している『色の手帖』を開いてみた。”山鳩色”ヤマバトの羽のように、黄色に青色のかかった色。緑みの灰色。古く「麹塵(きくじん)」のことをいった…とある。そして色見本の色はまさしくアオバトの色。この言葉が使われていた文献として佐々木さんが上げていた「平家物語一一 先帝身投」も出ていた。そしてなんともっと古い記録が。

 平家物語は13世紀前ですが、これは11世紀前の『兼澄集』に“かげあきらが筑紫へまかりしに、やまばと色の、かりあををつかはすとて”という一節があったことも載っていた。

 「麹塵(きくじん)」という色は山鳩色よりすこしくすんだ色で、麹黴(こうじかび)の色によるといわれる色。灰黄緑。特に天皇の褻(け=公の晴れに対して日常的な私事)の袍(ほう)の色として禁色とされた…とある。たしかに高貴な方の衣服の色だ。

 『兼澄集』という文献のことは後で調べるが、一気に江戸時代から11世紀までアオバトの文献記録を溯ることができた。佐々木さんに感謝あるのみ。

 “山鳩色”ということばが、もしも日本でのアオバトの羽色の観察に基づいていることがはっきりすれば、日本にこの時代にアオバトがいたという証明になる。

 

参考文献

  • 浦本昌紀 1971: “アオバト”今泉吉典ほか編 
      アニマルライフ 第1巻2号 
         1973:“ハト”同上 第7巻10号
              日本メール・オーダー社
  • 佐々木勇 1986 : あおばと 自費出版
  • 山階芳麿 1986: 世界鳥類和名辞典 大学書林
  • D. Gibbs, et al. 2001: "Pigeons and Doves -A Guide   to the Pigeons and Doves of the World"  Pica Press
  • 中村登流 1988:  森と鳥と 信濃毎日新聞社
  • デービッド・アッテンボロー 
     浜口哲一・高橋満彦 訳 2000:  鳥たちの私生活 山と渓谷社
  • 野間直彦 2000: 『照葉樹林を作る鳥たち』  Birder 2000年3月号 文一総合出版
  • 尚学図書・言語研究所編 1986:    色の手帖 小学館

 

 麹塵(きくじん)色は下のアドレスで色が確かめられます.(リンクの確認が取れていたいのでアドレスのみ示します)

http://homepage1.nifty.com/kristall-plus/con1/rgb/r_ye03.htm

 山鳩色については下に解説があります.
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Icho/9109/iro-ao.html