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アメリカにも海水を飲むハトがいた

私のアオバト仮説 その14

田端
2002.11.10

 昔書いたオビオバトのことを掲示板に載せたところ、それに反応し白田さんが北米の文献をさがして、大発掘をしてくださった。アオバト属とは別の進化の段階かもしれないカワラバト属にアオバトに似たような生態・生理を持つオビオバトが存在していたのだ。

アオバト仮説』に新しい地平が拓かれてきた。
 まず、大発掘の引き金となった1997年1月号『高麗の鳥』の記事を再録しておこう。

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北米にミネラルウォーターを飲むハトがいた

  息子が「アオバトの記事が出ているよ」といって切り抜きを手渡してくれた。なになに…といって見てみると、『ナショナル・ジオグラフィック』の1994年8月号の記事の切り抜きだった。

 読んでいるうちにコーフンしてきた。その記事の持つ重大な意味に気づいたからだ。

「これ、アオバトじゃないよ。オビオバトというハトだ」。

鉱泉水を飲むハトがアメリカにもいた。しかも漿果をよく食べるヤツだという。ま、とりあえず全文を紹介してしまおう。
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  時計のように正確に、オビオバトband-tailed pigeon)たちが毎年夏になると同時にアメリカの太平洋岸北西部(ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州北部)の森林のなかのミネラル分の豊富な泉に現れる。オスたちが到着して飲むと、巣へ飛んで行きメスたちと交代して、メスも飲みにくる。

 最近になって、科学者たちがこの行動の理由を解明した。

 ハトはみなカルシウムに富んだカテイジチーズ状の物質を作りだす。これはピジョンミルクと呼ばれていて、雛にこれを食べさせる。大部分のオビオバトは種子や堅果を食べるが、この地方のハトだけは、主に漿果を食べている。漿果にはカルシウムがどうしても不足している。

 Oregon State  University 野生生物生態学者、Robert Jarvis さんは「われわれは、いままでは、渡りのときの必要から鉱泉に立ち寄るのだと考えていたが、この行動が、ハトたちが営巣期の間、カルシウムを必要とすることに関係があることがわかった」と語っている.

―Boris Weintraub

  オビオバトは、アオバトの仲間ではない。ドバトと同じカワラバトの仲間だ。こうしたアオバト属ではないハトのなかに、食性が漿果を食べることに偏しているケースで、ミネラル分を含んだ鉱泉水を飲むという例があることは、実に示唆的だ。 同じオビオバトのなかの北限種にこうした例が見られることも興味深いことだ。われわれは、この話題に沸き立ってしまった。

「ロバートさんに照ヶ崎のビデオといっしょにアオバトのことを英文に訳して送ろう」

「きっとびっくりして反応があるはずだ」

「ボブ、ツネと呼び会って親しくアオバト談義を照ヶ崎でやりたい」

「この前はイギリスの鳥類学者から問い合わせがあって、英文を送ったばかりだ.アメリカとも交流することが現実になるとは」

「われわれの組織も国際的になった」

「“MWPA”という団体を設立しよう」

「なんだそれは」

「Mineral Water Pigeon  Academyだ」

「いやオレはAcademyはキライだ.Associationがいい」

「英語ができないとダメだなぁ」

「いやいや、そんなことはない.フィールドワークは手話と度胸があればダイジョウブだ」

もう、ワアワアという騒ぎ。

2000年を目指して、ゆっくりと楽しく「アオバトの本」を作ろうということで、師走の夜は更けていくのであった。 

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94年当時のJarvisの仮説は「オビオバトはピジョンミルクの主成分であるCaは主食の漿果にはあまり含まれていないので、Caを多く含む鉱泉水を飲んで補給する」というものだった。

  今回、白田さんが発掘してくださった Jarvisが2000年に発表した論文のタイトルは、94年当時の仮説に大きな疑問を投げかけたものになっている。

 「オビオバトはミネラルサイトでカルシウムの補給をしているのか?」

白田さんが訳出してくださった論文概要はこうだ。

 

 この研究では、オビオバトが利用しているサイトと近隣の未利用サイトのミネラル成分、および繁殖期に食べている3つの主要食物のミネラル成分を比較した。利用サイトの65%はカルシウムの含有率が低く、3つの主要食物のカルシウム平均含有率は高い。また、一箇所以外の全ての利用サイトのナトリウム含有率は高く、3つの主要食物のナトリウム平均含有率は低い。一方、3つの主要食物のカリウム平均含有率は高く、カリウム/ナトリウム比も高い。従って、オビオバトはナトリウム不足による繁殖期の栄養バランスを補うためにミネラルサイトでナトリウムを補給していると考えられる。

 

 言い換えれば、カルシウムに関してはオビオバトが飲みに立ち寄った所の大半はカルシウムの含有率が低い水飲み場で、主に食べている食物には平均して豊富にカルシウムが含まれている。カルシウムは食物で補給できている。

 ナトリウムに関しては主要な食物にはあまり含まれていないが、ほとんどの水飲み場のナトリウム含有率は高い。さらに主要な食物のカリウム含有率は高いので、体内のNa−Kバランスを保つためにナトリウムを水飲み場で補っている。というのが、2000年仮説の結論だ。


 Jarvisさんの今回の調査で”オビオバトがNa補給のため、海水を飲んでいることも判明した
 オビオバトが営巣期に利用するミネラルサイト、主要食物、未利用のミネラルサイトのミネラル成分構成(Na、Ca、Kなど)を比較した。 また、オビオバトがオレゴン州西部で利用していることが知られている全てのミネラルサイトの場所と源を記録した。 そして、オビオバトが食物によるカルシウム不足を補うためにミネラルサイトを利用しているのであれば、利用サイトのカルシウム含有率は高く、食物摂取によるカルシウム不足があるはずだと推論したが、この推論は外れた。

 そうではなく、オビオバトはミネラルサイトでナトリウムを補給しているのではないかと考えた。それはオビオバトが家畜用の塩補給所で塩をつついていたり、湾岸沿いや河口域において塩水を飲んでいるのが観察されたからである。今回の調査で、この推論は立証された。

 カラスバトキジバトドバトなどでも海水を飲む記録は皆無ではないが、このオビオバトはNa摂取という必要があっての海水吸飲であるようだ。

ピジョンミルクの成分表そのものをぜひ見てみたい。どの種のハトのものかも確認したい。Naがピジョンミルクに多く含まれているという文献(平凡社 1986『動物大百科』8 鳥類U62p「ピジョンミルク」Hugh Robertson )もあるので、繁殖期の吸水行動との相関も調べてみたい。

 それにしても、アオバトと比較対照する恰好のハトが見つかったものだ。

オビオバト(Columba fasciata) 帯尾鳩 英名:Band-tailed Pigeon ハト目ハト科

 全長約38cm。上面が暗灰色で、頭から頸・胸・腹は紫褐色。後頸に光沢のある緑色斑があり、その上部に白い輪がある。尾は淡灰色で中央に黒い帯があり、飛翔時には扇形に広がる。北アメリカ西部から中央アメリカ・南アメリカ北西部に分布。山の斜面や灌木林・森などに生息。数羽の群れで行動するが、渡りの時期には大群をつくることもある。巣は樹上につくり、白色の卵を1個生む。頸に白い輪があることから、シロエリバトともいう。

 吉井正一監修 1988 コンサイス鳥名事典 三省堂から

田端註

  • 和名は上掲書ではオウギバト(扇鳩)とあったが、山階芳麿(1986)世界鳥類和名辞典のオビオバトを採用した。